しかし彼は

彼はiPhoneを使っている。私はAndroidしか使ったことがないどころか、Apple製品をまったく使ったことがないのだけれど、彼がiPhoneを使っているところを愛おしいと思う。彼が持っているのがAndroidではだめなのだ、理由はうまく言えないけれど。きっとなにかが噛み合わなくなってしまう。そしてiPhoneTwitterをしていることが愛おしい。ユーザ名のうしろに表示されている“Twitter for iPhone”という文字列がただ愛おしい。しかし彼は、Twitterアカウントを削除してしまった。

彼の腕時計は、文字盤に数字が描かれていない。私がそれを見て「数字がないとふと見たときに咄嗟に時刻がわからない」と言うと、彼は「いや、そんなことはない」と笑ったのだった。私が腕時計を見るふりをして、彼の手首のその皮膚や、手の甲の骨の形を、舐めるように見ていることに気付きもしていないんだろうな。しかし彼は、その腕時計をなくしてしまったそうだ。

仕事中、たまたま、あまりに暇な時間があり、彼の勤めている会社のビルをグーグルマップで検索した。そうか、ここか。ここで彼は今頃働いているのか。ビューモードを切り替えて実写で表示させた。駅前。高層ビル。なに、この業務用製氷皿みたいな窓。愛おしかった。しかし彼の勤務先は、ほどなくして別の場所に変わった。