時限

海の真ん中で、上を向いて水面から顔だけを出して漂っている。呼吸はなんとかできる。でも少しでも顔をそらすと水を飲みこんでしまう。海水が目に沁みる。進む方向がわからず、確認することもできず、ずっと漂っている。
漂い続けてどれくらいの時間が経ったのだろうか。まわりには同じく海面を漂う人々がいるのだけれど、みんなが何の話をしているのか、私には全然聞き取れない。向こうのほうで、誰かが言い争っている。二人はお互いの足の引っ張り合い、やがて二人とも溺れて死んでしまった。私はそれに巻き込まれないようにとにかくもがいた。
こどもの頃に水泳を習っていたけれど、どうしても泳ぎかたを思い出せない。苦しい。誰か、手を引っ張って。一緒に溺れて。寂しい。

『04/27(火) 10:00』
大音量のアラームが響く。頭が痛い。尋常じゃない量の汗をかいている。自分の手をきつく握り締めていて、手のひらに食い込んだ爪の痕が赤黒かった。またきょうも生き延びたらしい。そろそろ本当の自分がわからなくなりそう。