マクドナルドにて

時刻は16時を過ぎた頃。

女子高生が化粧をしている。
学校が終わってあとは家に帰るだけではないかと疑問に思うが、海外のお菓子みたいに真っ赤な口紅をした彼女は、目を細めてアイラインを引いていた。
鏡に向かって2、3回瞬きをしてメイクの出来を確認してから、iPhoneを取り出すと周りを気にする素振りも見せず自撮りをした。
その瞬間、そこは彼女の自室だった。


男子高校生4人のグループが視界に入った。
彼らは誰ひとり言葉を交わすことなく、スマホを操作してる。それなりに騒がしい店内に不釣り合いなほど無言で、無表情であった。
たまに片手で器用にハンバーガーを食べる。ドリンクを飲む。あくびをする。頭を掻く。すべての動作において徹底して彼らの目はスマホの画面に向けられている。
通路が狭く、ひとりの椅子の背もたれに他の客がぶつかったが、それでも彼は画面から目を離さなかった。
彼らの世界はスマートフォンの中だった。


壁際の席に、リクルートスーツを着た女性がひとり。
履歴書と、びっしりと文字が書かれたメモを手に、ぶつぶつと何か話していた。
机の上のポテトは、見る限り萎びてしまっている。トレーの縁に、食べこぼしたレタスがへばりついていた。
お手本のように背筋を伸ばして腰を掛けているのは、マクドナルドのがたつく椅子だが、彼女にとってこの空間は、面接会場だった。


ポテトの塩気でぴりぴりする口元をティッシュで拭った。ぬるくなった烏龍茶は美味しくなくて、残すことにした。
うん、ご飯いらないってば。
化粧をしていた女子高生が、電話をしている。