蝶にならない

枕元に置いたスマホバイブレーションの音がして目が覚めた。アラームをかけた覚えはなく、眠りを妨げられた不快感を伴いながら画面を見た。
メールが一通。ずっと行っていないCD屋のメールマガジンだった。それを開くこともせず削除すると、異常に重い布団を押しのけてからだを起こした。

朝ごはんは食べない。特別は理由はないけどあえて付けるとすると食べたくないから。大学生の時からそうだ。台所で水を1杯飲んでから、ゲームをするつもりでまたベッドに戻った。

壁にもたれて少しぼーっとした。肌寒かったので、重い布団を無理矢理からだに巻きつけた。
すると、ふと子供の頃を思い出す。
布団にくるまって顔を出すと、蛹みたいだと母が笑った。

気が付くと海の底にいた。大人になっても蛹のままの自分は、海の底に沈んでしまっていた。藻掻く手足も殻の中。きっと、ずっと、水面を眩しそうに見上げることしかできない。海水は自分の涙で、どんどんかさを増した。


音がした。
聞き馴染のあるバイブレーションの音。
目を開けた。
自分が被っているのは蛹の殻ではなく、布団。
そして異常に重いやつ。
いつものベッドの上、いつもの景色。
スマホの画面を見ると、メールが一通。
ずっと行っていないカラオケのメールマガジン
それを開くこともせず削除した。