どうするの

私たちは無力です
ステンレスの中でしずかに炭酸がはじける音を黙って聞いているのです
ベランダで鳥が喧嘩しているのを見守ります
西日で葉脈を透かします
溶けた雪がアスファルトに染みをつくりました
赤く焼けた空を見ると、人間ができることなどもう何もないのではないかと思ってしまいます
何を考えて生きるのが正解なのかわからなくなってしまいます
肺に詰め込んだ空気が冷たくて、泣いても、誰も見ていません

ブルーハワイの余情


花火をする前の虫よけスプレーのにおいに咽せる。
火種がバケツの水に落ちる瞬間、身構えて息を止める。

200円を握りしめてかき氷屋さんを探した。
食べ終わった後のストローを噛んで、プラスチックを味わう。

ラジオ体操すら上手に見られたい。
でも、誰とも話さずに帰りたい。

紙粘土でなんでも作れる気がした。
貯金箱は最終的にペン立てになる。

扇風機の風量を意味もなく強にしたりリズム風にしたりする。
指先で羽をもてあそび、埃を拭い取る。

おばあちゃんが切ってくれた冷たいすいかを夢中でかじる。
果汁があごを伝うくすぐったさが不快だ。

寝なくても朝が来ることを初めて知った。
人の気配のないいつもの街は別世界のようだった。

下駄と素足の間に砂が入るのを心の中で気にしながら人混みを進む。
足が痛いなんて言えないくらい好きな人。

誰にも気づかれずに取っておいた、大事にしすぎて忘れかけていた、あの夏に抱いた感興、緊張と焦燥。
いつのまにか自分のものではなくなってしまった。

夏休みを返してください。
アルバムが燃え尽きる前に返してください。

残された時間は少ないということを理解しているか

河川敷を走りたい
虫網を持って走りたい
草むらの青臭さと川の生臭さをめいいっぱい吸い込んだけがれなき純粋な吐息
川の流れる音が突然止んだ
その瞬間私は取り残される
夏は駆け足で過ぎ去り
罰が手招きしている
コンビニで買う500mlの水をいつも飲み切れない
指輪をなくさないように大事にしながら私たちは戦争をする
はじめまして、朝よ
割れた画面のそのひびの隙間から太陽が覗く
緑色の光をまぶたに感じる
理解のできない時間に家の前をトラックが通過する
明るい空が恐ろしい
口癖を忘れたころに、また会いたい

目を閉じて遡る思い出はあんなにも鮮やか

お酒は我慢できないし
ネットには加工した顔写真しか載せられないし
うまく眠れなくて朝5時になり
毎日へんな夢を見る

料理はがんばるけれど洗い物はできない
お風呂は洗うけど洗濯物は干せない
お寿司は大好きだけどわさびが食べられない

大きなモニタの中央に長方形のメモ帳を表示させて文字を打つ
メモ帳の左右で美少女が微笑んでいる
好きなゲーム実況者の2017年12月の生放送アーカイブをBGMにしながら
私はわけがわからないふりをしながら文字を打つ
なんでこうなっちゃったんだろうと
とぼけたふりばかりうまくなってしまった

私のほうがもっと知ってるのに
先に知っていたのに
全部盗まれる

酔っているときにマヨネーズの味を思い出すと吐き気がしてくる
食欲が失せてダイエットになる

なんでこうなっちゃったんだろう

影は黒いくせに
光は青ですか
緑ですか
ピンクですか

おうちじかん

入浴するのが好きではない

服を脱ぐのが面倒くさい

体が濡れるのが面倒くさい

髪を洗うのが面倒くさい

けれど、休みの日に2時間くらいかけてお風呂に入るのが好きだ

設定温度は44度

高温で20分以上浸かるのは心臓に負担がかかるからよくないとネットの記事に書いてあったけど

のぼせてふらふらになりながら、さらにスマホのアプリでナンプレをしたりソリティアをしたりして、わけがわからなくなるくらい、気持ち悪くなるのが大好きだ

アルコール度数9%のレモンサワーを飲みながらお風呂に入った

クリームソーダ色の入浴剤を入れる

顔から汗がどんどん吹き出してくる

汗が目に入って痛くて何も見えなくなりながら、さらに視界がグルグルまわる

きっかり2時間後、ほとんど地獄の底を這う亡者のようになりながら、朦朧とする意識のなかでなんとか風呂場から脱出した

体も拭かずにびしょびしょのままベッドに飛び込んで、そのまま気絶した

入浴ってめんどくさい

少女よバカであれ

なんで大人になったら純粋に友達と遊べないんだろう。家で一緒にゲームするとか、マンガ読みながらだらだらするとか、一緒におやつ食べるとか。川で遊ぶとか。シャボン玉とか。野良猫を追いかけるとか。
いや、正直に言うと、こどもの頃に友達とそういう遊びをしたことがない。そもそも友達がいたのかという話は置いておいて。ただただ、楽しいことがしたい。それだけなんだけど。
こどもの頃、大人になったらなにもかも自由なんだと思ってた。でも実際は、大人になるといろいろなことができなくなる。みなさんは大人になって良いことって、ありましたか。
おとなしい、しっかり者、まじめ。大人に気に入られるクールな自分こそが正しいのだと信じていた。でもそれは嘘だから気をつけたほうがいい。いま、当時の私に会えるのならそう声をかけたい。不真面目な大人こそ得をする。だからこそ、まじめなこどもたちをわが子同然に愛する。
正解がわからないので想像で生きてきた。でももう限界が近いかもしれない。はやく、シャボン玉で遊ぼうよ。

エコーをかけて愛を叫びたい

同じ道を歩いてきたはずなのに、きょうはなぜかうまくたどり着けなかった。きのうはすんなり帰れたのに。でも、もはやそんなことは問題ではない。
黒い服が大好きで、とくに気に入っている黒いワンピースを着て夜道を歩いた。今なら何が起きても私がこの世界の主人公だと思えそう。
かわいい女の子とすれ違った。それでも私がシンデレラだった。
きのうの倍くらいの時間をかけて帰った。真っ先に、鈍器のような靴を脱ぎ捨てる。
シャワーを浴びたら、かかとが沁みて痛かった。靴擦れで皮膚がめくれている。
よく見たら全身傷だらけだ。
知らぬ間にできていた膝の痣が愛おしい。愛おしいので、その痣を全力で押した。愛を込めて。
4月29日のことなんですが、誰か私に「愛してる」って言いました?
気のせいならそれでいいんです。魔法は解けるから魔法なんです。