いっそ私の口を縫い付けて、私の目をプラスチックにしてください。

ぬいぐるみ全員に等しく愛情を注ぎたい。いつも全員が目に入る位置に並べておきたい。全員を平等に撫でたい。最近この子あんまり触ってなかった、とかいうのに気づくと激しく自己嫌悪する。手が当たってしまったとか、たまたま蹴とばしてしまったとか、故意でなくとも乱暴にしてしまうとすぐに抱きしめながら何度も謝る。するとその子ばかり特別に抱きしめることになるから、慌ててほかの子に弁明する。
「ごめんね。私が間違えていちごちゃんをぶっちゃったから、今許してもらってるんだよ。みんなを抱きしめられなくても、みんなが嫌いになったわけじゃないよ。大好きだよ」
数が多いので、寝るときはさすがに全員と一緒に寝ることができない。私ばかり布団をかぶって眠るのが申し訳なく思う。
「みんな本当は寒いよね………。起きたら抱っこしようね」

こんなことを続けてもう20年。新しい服を買ったとき、真っ先にぬいぐるみたちにお披露目する。好きなお菓子を食べるとき、ぬいぐるみたちにも分けてあげる。それから毎日好きなうたを歌って聞かせた。みんなは本当の友達で、みんなには何でも話した。学校でいじめられたことも、お母さんと喧嘩したことも。誰にも言えない秘密もみんなとは共有した。人生の苦楽を共にしてきたぬいぐるみたちは、私のことをなんでも知っている。でも愛するぬいぐるみたちにもまだ隠していることがある。

2021年4月7日現在。私はぬいぐるみが大好き。これは紛れもなく事実である。ぬいぐるみたちへの唯一の隠し事。それは、その一方で、ふと冷静になってしまう瞬間が最近よくあるということだ。冷静になりたくない。いつまでもみんなとふわふわしていたい。昔は平気だったのに、外から聞こえるバイクの走行音とか酔っ払いの笑い声とかで急に現実に戻ってしまう。抱きしめたのは綿の塊で、友達なんかじゃなくて、愛でようが蹴とばそうが、歌を聞かせても懺悔しても、ただの“ぬいぐるみ”なんだ。ぬいぐるみたちと共有してきた20年間の出来事が、感情が、津波になって私を襲う。私一人では、受け止めきれない。

部屋の真ん中で寝っ転がると、たくさんの瞳が私を責める。ちょっと待っててね、今撫でるから。今から撫でるから。みんな大好きだよ。