部屋とTシャツと私

9:35。静かな朝だった。寝巻のバンドTシャツ1枚だと、部屋の中でもまだひんやりとする。買ったばかりのティファールのポットでお湯を沸かす。この首元が伸びきったTシャツはなんだかんだでもう7年くらい着ている。Tシャツを買うためにライブの物販に並んでいた7年前のその場面を思い出した。普段お母さんが買ってきた服しか着ていない私は、自分の服のサイズがわからなかった。私は、後ろに並んでいた女性に勇気を振り絞って声をかけた。
「すみません、サイズ見てもらってもいいですか」そう言って、今着ている服の背中のタグの部分を女性に見てもらった。
「なにも、書いてないです」女性は戸惑いながら答えてくれた。そして私は勘で買ったLサイズのTシャツを着て、ライブを楽しんだのだった。
お湯が沸いた。マグカップを洗うのを忘れていた。軽くすすいだだけのカップに、白湯を注ぐ。ほんのりとコーヒーの香りを感じながら、私は目を閉じた。4月1日の、ひとそれぞれの生活を想像する。みんなが何かを始める日。学校、会社、なんやかやの特有の“始まり”の雰囲気を思い浮かべた。浮ついた独特の空気を思い出して、おなかが痛くなってきた。隣に人が引っ越してきたようだ。玄関のほうがガタガタと騒がしい。私には何ができるんだろうか。白湯を飲み干して、カーテンを開けた。一面の曇り空は、すすけたバンドTシャツみたいで最高だった。